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公開日:2025年9月21日 最新更新日:2026年3月22日
「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。」
旧民法819条6項が「親権者を他の一方に変更することができる」と規定していたところ、新民法819条6項は、単に「親権者を変更することができる」という規定に改めました。これは「他の一方」(単独親権)だけではなく「双方」(共同親権)にも変更することができる、という意味です。
つまり、旧民法では、「母単独親権→父単独親権」と「父単独親権→母単独親権」の2つのパターンしかありませんでしたが、新民法では、次の6つのパターンの親権者変更がありえることになりました。
① 母単独親権→父単独親権
② 父単独親権→母単独親権
③ 母単独親権→共同親権
④ 父単独親権→共同親権
⑤ 共同親権→母単独親権
⑥ 共同親権→父単独親権
なお、親権者変更の申立権者について、旧民法が「子の親族」としていた点を、新民法は「子又はその親族」として、子自身にも申立権を認め、子の意見を適切に考慮することを制度的に保障しました。
親権者変更の審判における裁判所の判断基準についても、基本的に、これから新たに親権者を定める場合における新民法819条7項の基準(新民法819条7項の基準についてはこちら)があてはまりますが、それに加えて、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、次の通り「当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする」との明文が設けられました。
「第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。」
「当該協議の経過」を考慮すべきとされたのは、たとえば、離婚前の父母間に一方からの暴力等があり、対等な立場での合意形成が困難であったといったケースなどで、離婚後にその定めを是正することができるようにする趣旨です。
そして、「当該協議の経過」を考慮するに当たっては、次の通り、父母の一方から他の一方への暴力等の有無や調停の有無や協議の結果についての公正証書の作成の有無などをも勘案するものとされました。
「この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。」
ここでいう「暴力等の有無」とは、「身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動」のことです(新民法819条7項2号)。したがって、身体に対する物理的な暴力に限られません。
たとえば、離婚前の父母間に一方から他の一方へ心身に有害な影響を及ぼす言動(モラハラ的な言動)があり、対等な立場での合意形成が困難であったといったケースなどで、離婚後にその定めを是正することができるようにする趣旨です。
調停や公正証書で親権者を決めた場合には、協議の経過に問題がなかったものと見られやすくなると思われますので、調停や公正証書で親権者を決める場合には、特に注意が必要となりそうです。
今回の民法改正に伴い、今後、特に起こることが予想される親権者変更のケースを2つ取り上げます。
過去に離婚し、母が単独親権者として子を育てていたところ、2025年4月1日の改正法施行後、元夫から共同親権への変更を申し立てられるケースが予想されます。
この場合、もし、元夫から「身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動」を受けるおそれなどの事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときは、新民法819条7項2号により、共同親権への変更は認められません。
実務的には、それをいかにして主張・立証していくかが課題となります。
たとえば母が子を監護している場合、2026年3月31日までの離婚においては単独親権しかなかった、元夫からのモラハラにより支配的な影響を受けているケースであっても、父単独親権に安易に応じてしまうことは少なかったと思われます。
しかし、2026年4月1日以降の離婚においては、元夫からの支配的な関係を背景として、早期に離婚することを望む結果として、元夫の共同親権の求めに安易に応じてしまうケースが増えてくることが予想されます。
その結果として、離婚したにもかかわらず、共同親権による様々な制約を受けて、子の利益を害するようなケースも出てくると予想されます。
その場合に、監護親である母が、共同親権から母単独親権に変更する申立てをすることが考えられます。
このケースでは、身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれなどの事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難である(新民法819条7項2号)ことを主張立証するとともに、離婚当時、安易に共同親権に応じてしまった当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情(新民法819条8項)を主張立証していくことになります。
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(離婚又は認知の場合の親権者)
第819条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。